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あるびん・いむのピリ日記

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『葱ザクザク、玉子パカッ』

少し明るい気分の映画を見よう、と買っておいたビデオの中から「ヒューマン・コメディー」と銘打たれたこの作品を見ることにした。しかし・・・ネタばれになるので詳細は書けないが、確かにコメディーでもあるのは確かだが、実は、最後はハンカチが必要なほど涙が溢れだすような映画だった。
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出演は、主演の独身お気楽男・イ・テギュに、もはや歌手というよりその異形のコメディアンぶりで人気絶頂のイム・チャンジョン。そして、チャンジョンの9歳の息子インソンを演じるのは、この映画のために行われた1,500人のオーディションから選ばれた新人子役、イ・インソン。監督はこれが二作目となるオ・サンフン。イム・チャンジョンはこの監督の第一作『大いなる遺産』にも主役で出演している。



海賊版CDを出版しているテギュは、夢見た歌手もあきらめ、女遊びにだけ喜びを見出すような、お気楽人生を送っている26歳の独身男。そんな彼の前に、ある日突然「お父さん、一緒に暮らそう!」と、9歳の一人の少年、インソンが現れる。心当たりはないではないが、そんな子供にいつかれてはたまらない・・・と、あの手この手で追い出そうとするテギュ。しかし、インソンも必死の対抗策で離れようとしない。何かよい方法はないのか・・・と考えるテギュ。そこにインソンが、「韓国縦断旅行に連れて行ってくれたら、あきらめる」と条件を出す。子供ならすぐ音を上げるだろう・・・と、喜んで承知し、二人して旅に出るテギュ。しかしその旅の途中、テギュは次第にインソンと仲良くなり、父親の情に目覚め始める。そんな矢先、テギュはインソンの意外な秘密に気づかされるのであった・・・
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多少の脇役の働きはあるが、この映画は80%、いや、それ以上、イム・チャンジョンの一人映画である。そしてまた、それがはまり過ぎるくらい成功、的中している。『失時里2km』でも、そのコメディアンとしての異能ぶりを遺憾なく発揮して、大人気を博していたが、ここでもへんてこりんな体の動きを活用しながら、しかも、それにヒューマニティーを加味することに成功している。今回は、そこにもともとの芸である歌も披露していて、まさに独り舞台、独擅場。よほど監督と相性がいいのだろうか、それとも監督が彼のよい所を十分すぎるくらい引き出しているのだろうか・・・とにかく、のびのびと演じていて見ていて気持ちがいい。
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そして残りの20%・・・いや、時として主役のチャンジョンを食ってしまうほどの、巧まざる名演を見せるのが、子役として選ばれたイ・インソン。名子役というと、すぐ『おばあちゃんの家』『ドンテル・パパ』のユ・スンホ、『先生、キム・ボンドゥ』『大統領の理髪師』のイ・ジェウンのようなタイプが頭に浮かぶが、このイ・インソンはまたそれらのタイプとはかなり違う。活発で子供らしいのは共通してはいるが・・・なんていうか、繊細で翳りがあるのだ。一言でいうと、ハーレイ・ジョエル・オスメントのような魅力があるのだ(彼ほどの演技力はない)。それが、この映画のテーマと恐ろしいほどにマッチしている。
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あの手この手でテギュが追い出しを図る前半、アパートの前で一晩中歌って彼を困らせるインソン。しかし、その笑顔の寂しそうなこと・・・そして後半、ロードムービーとなるのだが、二人で仲良く旅に出ている途中で見せる孤独な表情・・・。もう、たまらなくぎゅっと抱きしめたくなる。白眉は、この映画の題名にもなっている歌謡曲「葱ザクザク、玉子パカッ」をお父さんとデュエットしながら旅館で鍋ラーメンを作って二人で食べる場面だ。親子とはなにか、人間の根源的な絆とはなんなのだろうか・・・そんな哲学的なことを考えさせられてしまうほどの深みに満ちていた場面だった。そして・・・そんな場面が積み重なるほど、後半の涙の量は加速的に増えていく。

極めて優れたヒューマン・コメディーであって、多分(まだ見てはいないが)『マラトン』にも比肩し得るほどの出来栄えだと思った。惜しむらくは、最後の最後が比較的あっけない幕切れだったことだ。きっと・・・あれでよかったのかもしれない。でも、私としてはもう少し、ボリュームのある余韻を感じていたかった・・・。イム・チャンジョンファンならずとも必見の映画である。
by cookie_imu | 2005-04-17 18:18 | 韓国映画・新しめ