あるびん・いむのピリ日記

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「多毛留」

俳優の米倉斉加年さんが絵・文共に1976年に書いて、翌年のボローニャ国際児童図書展グラフィック大賞受賞した名作絵本です。
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この絵本の存在は、昔から知っていたのですが、なぜか手にとって見るまでには至りませんでした。なんとなく、私の心の中に妙なこだわりのようなものがあったのです。この絵本が、百済人の姫と、大和人の漁師の青年との間にまつわる、一種の「民族的悲劇」を扱ったものだということも知ってはいました。そして、絵本が出版された当初、米倉氏は盛んに韓国朝鮮食品会社「モランボン」の宣伝をしており、なんだか、そんなことも妙に私の心を卑屈にさせていたのです。TVで堂々と、当時まだまだ差別的な風潮の強かった、韓国朝鮮料理の宣伝をしていた米倉さんに対して、「自分のような人権に対する意識の低いものが、手に取れるような本ではないのだ・・・」という、今から考えると滑稽なような、鬱屈した思いを抱いていたのでした。

それが、最近あることがきっかけで氏の別な絵本「大人になれなかった弟たちに・・・」を購入することとなり、この際、品切れや絶版になる前に・・・と思い、少し高かったのですが購入しました。

手にとって読んで見て、やはりとても感動しました。とにかく、その絵の高潔なまでの潔癖さ、そして繊細極まりない筆遣いの中に見える、豪胆さ、まさしくあの時代に、よくこの物語を書き得たなぁ・・・という感慨で胸が一杯になりました。特に、圧巻なのは、口がきけないと思われていた多毛留の母が、漂着した男たちを介護し、初めて見知らぬ言葉(ハングル)で声を発する場面です。いま少し引用してみます。

多毛留はなにもわからんばってん
笛の音のような高く低くせつせつとつづく
美しいかあさんの声ばききよるうちに
多毛留の目からも涙があふれた
わけもなしにかなしゅうなって 涙があふれて出たったい

ととさんだけは暗い目で 海ばじっと見とったげな

この先はぜひ、本をお読みいただきたいと思うのですが、このページの挿絵には、ハングルでのアリランが添えられています。漂着し、日本で母となった姫の思いが切々と語られています。

韓国朝鮮、在日の方に対する差別的な風潮が強かったあの時代、卑屈な気持ちになっていて、この作品に触れなかったことがことが良かったのか悪かったのかは未だに分かりませんが、とにかく、この感動をもって、今の時代にこの絵本を皆様にご紹介する価値は、確かにあると思いました。
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by cookie_imu | 2005-05-12 16:31 | 小説・詩・文学あれこれ