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あるびん・いむのピリ日記

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『顔のない美女』

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去年の夏、訪韓した際に見た映画で強く印象に残ったものの一つがこれです。
一昨年、サイコ・スリラー『四人の食卓』を、ソウル劇場のレイト・ショウで見て、怖くて一人で寝られず、夜が白むまでポジャンマチャでマッコリを飲んで震えていた…という愚を犯した反省にもかかわらず、「多分大丈夫だろう」とたかをくくって、またレイトの部でこの類の映画を見てしまうという、同じ過ちを犯してしまいました(笑)。結果として、またポジャンマチャで夜が白むまで…ということを繰り返してしまった、学習能力のない私です(^^;。逆に言うと、そのくらいホラーとしては出来がよかったということでしょう。

監督は、『ロード・ムービー』でトランスジェンダーの問題を取り上げて話題のキム・インシク。主演は、もはや韓国芸能界では押しも押されもせぬトップ女優のキム・ヘス。お相手は、『JSA』などで知られるキム・テウです。上に掲げた写真は、キム・テウの手がヘス嬢の際どい所に伸びていて、大変物議をかもしたポスターです。公示前はあと何センチか、指先が侵入していたのですが(品がなくてスンマセン^^;)、韓国映倫によって指先が押し戻された、といういわくつきのもの(爆)。
 ヘス嬢は、芸能界デビュー19年目にして、初めてヌードを披露した…というので、そのことでも大評判になった作品です。ただ、私としてはセクシービューティーがトレードマークであった彼女が、脱いでいなかった、というのは意外だったのですが(^^;やはりお国柄というか、見かけは大胆そうでも生真面目で倫理観念は堅固な人だったのですね(^^)。最近は芸術性の名の下に、割と気軽に脱いでしまう女優が多い中、けっこう古風な気質を持っていたんだなぁ…と、ちょっと感動しました。逆に言うと、今まで出た映画の中でも、最も自分らしさを出せたという気構えと自信が、キム・ヘス自らを裸にしたのかもしれません。
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ストーリーは、境界性人格障害(精神的に不安定な自己と神経症との間の境目にある症例)の疑いがある女性、ジス(キム・ヘス)が、常に誰からも相手にされていない、夫にも見捨てられてしまう…という恐怖に苛まれて、とうとう自宅のバスタブで手首を切ってしまう…という話から始まります。この、血の海のバスタブの図はとても凄惨なはずなのですが、映画の中ではなぜかとても美しく、その中に横たわるキム・ヘスの凄艶な美しさもまた強く印象に残っていますので、あえて掲出させていただきました(下写真)。
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やがて彼女は治療のため、精神科医のソグォン(キム・テウ)を訪ねます。この、ソグォンのオフィスの美術的造形が素晴らしい!特に、患者の治療の一環?のためか、エレベーターを降りて彼のオフィスに至るまでの階段が、音階が鳴るガラスの階段になっているんですね。後にこれは、ジスが彼のもとを訪れる合図のようなものとして、効果的に使われていきます。

そして、ソグォンは、治療の段階でトラウマから徐々に自分へと心を開いてくれるジスが好きになります。そして遂に、これは医療倫理としては許されることではないのですが、催眠状態の彼女と関係を持つに至ります。ですが、ここのところはかなり複雑で、字幕ナシで見ていた私は、ジスが心開く過程でソグォンを愛するようになり、納得ずくで体を許したのかと思っていました(^^;。ただ…後にそのことを知ったジスのソグォンに対する執着には病的なものがあり、まさにサイコ・ホラーとしてぞっとするようなものでした。この辺の、キム・ヘスの演技には鬼気迫るものがありました。彼女はボリュームがあるグラマラスな体型なので、全身で障害の症状、例えば痙攣などの不随意動作や苦悶の表情をすると、凄い迫力なのです。けれど美しい。怖いけれど綺麗、そんなことが並存させられるのは、きっとキム・ヘスだけでしょう。
(私は『スリー~臨死』も見ていますが、そのときもそう思いました)

対するキム・テウは、知的だけれど押しが弱い…というか、意志の弱そうな精神科医をこれまた、好演しています。いかにもヘス嬢の魅力に抗し切れず、吸い込まれていく様な…これは例えばチェ・ミンスみたいなカリスマ的に「強い男」には絶対出来ない役柄なので、とてもよい配役だと思いました。

映像的にも、先に述べましたように、非常にスタイリッシュに洗練されていました。ちょっと今までの韓国映画には見当たらないような、繊細なナイーヴさが全編を通して流れていました。しかし、物語がほぼ、この二人の会話のやり取りで進行していくため、語学力に乏しい私に詳細が分らなかったのはもとより、複雑な心理的やり取りが韓国人の観客にも、やや伝わりにくかったようです(例えばN-kinoのレビュウ)。

そのためか、映画としてはとても優れた出来であると思われたのに、ある種の実験的成果は評価されたのですが、興行的にも先述したヘス嬢の露出以外は、それほどの話題を集めることなく終わってしまいました。
 どうも、韓国ではこういった点がいつも問題だと思うんですよ、全ての映画を一律にシネコンのような商業映画館で上演してしまい、そこでの成績が芳しくなければ三日ででも打ち切る。日本なら、単館系のミニシアターで、じわじわとロングランして話題を盛り上げていくところなのに。そういったシステムが確立されていないんですね。今は勢いがあるからいいですが、そういった芸術性のある、作家主義の映画や実験的な映画を大切にしないと、かつての日本がそうであったように、いつかしっぺ返しが来るぞ・・・と思わずにはいられませんでした。
『四人の食卓』の時もそう思いましたが、レイトとはいえ、封切りしたばかりだったのに観客は10人足らず。これでは、せっかくの監督の努力も、キム・ヘスの熱演も報われないのではないか・・・と、一人夜更けのポジャンマチャで、マッコリを呷りながら強く思いました。
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なお、題名の『顔のない美女』は、境界性精神障害で自己喪失した女性の苦しみを述べたものですが、最後にあっという仕掛けがあります。これはナイショです。じわじわ~っ、と怖くなっていたのですが、「なんだ…これなら一人でホテルに帰れるや」と楽観していた私を、恐怖のズンドコ(笑)に突き落としたのも、これでした。皆様、どうぞ期待してみてください!!
by cookie_imu | 2005-01-05 17:22 | 韓国映画・新しめ