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あるびん・いむのピリ日記

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映画レビュウ100本記念 『ドクター・ポン』

こつこつと(とはいっても、最近ペースが落ち気味ですが・・・^^;)書き続けてきた映画レビューも、韓国映画74本、その他和洋映画25本になりました。記念すべき100本目は、私にとってはとても思い入れのあるハン・ソッキュ・キム・ヘス主演のラブコメディー、『ドクター・ポン』です。
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初めてこの映画を見たのは、『シュリ』が公開された2000年の秋ごろでした。すっかり韓国映画、そしてハン・ソッキュのファンになっていた私は、彼の主演デビュー作、と聞いて、一もニも無く麻布の韓国文化院まで飛んで行ったのです。初めて入る文化院の、独特の雰囲気に気圧されながらも、「教育映画」として見せられた、十分間の韓国古典舞踊紹介映画の次に始まった、この『ドクター・ポン(その当時の原題は、『ドクター・ボン 歯医者の結婚作戦』でした)』を見たときの衝撃は、今でも忘れられません。監督は、『敗者復活戦』、そして先ごろ公開され、一部に大きな話題を呼んだ?『千年湖』のイ・グァンフンです。



というのが、まず私の第一印象でした。『シュリ』は別として(とはいっても、シュリもまさしくそうといえばそうなんですが)韓国映画というものは、ハン・ソッキュを追って見た『八月のクリスマス』にしても、やっとのことでビデオを見つけて見てみたイム・グォンテク作品、『西便制~風の丘を越えて』にしても、とにかく真面目で重く、民族分断や「恨」といったものを色濃く負って、こちらの心にのしかかるようにしてくるもの・・・というイメージを持っていたからです。『八月のクリスマス』には、それでも現在の韓国映画に通じる、「軽味」のようなテイストを感じてはいましたが、やはりその生死を真剣に見つめる真面目さのようなものの中に、ハリウッド映画や日本映画とは違った資質を見出していました。そして、それがまた私を韓国映画にのめりこむようにさせた魅力の一端でもあったのです。
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ところが『ドクター・ポン』は全く違いました。重苦しい民族性とかあーたらこーたら、という部分は完璧に排除され、徹頭徹尾、娯楽に徹していました。ストーリーは、妻を病気で亡くした後、プレイボーイと化してしまった歯科医のポン(ハン・ソッキュ)が、事故で車を接触させあう、という最悪の出会いをした女性作詞家のヨジン(キム・ヘス)と、やんちゃ息子のフンを通じて徐々に心を通わせるようになる・・・という、まあ、どこにでもありそうなラブコメ物なんですが、「これがシュリや八クリと同じ人物か!?」と思えるほどの、ハン・ソッキュのハッチャケたコメディアンぶりに度肝を抜かれ、また子役のフンを演じたチェ・ジョンのあまりの芸達者振りに、腹の皮が捩れるほど笑いながら映画自体を楽しんでいました。その上、ちょっとエッチな部分も取り込んで…
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でも、それでもこの映画は紛れも無く、従来の韓国映画の血脈を堂々と継ぐ「韓国映画」でした。本当は、乳がんで妻を亡くした寂しさから立ち直れず、どんな女性も愛せなくなったポンと、それでも一人息子フンのためには、よい父親でありたいと願うポンの姿が、劇中では二重写しで浮かび上がってきます。ハン・ソッキュがシリアスな表情をするのはこの映画の中ではごく僅かなのですが、妻の墓に「寒くは無いか・・・」と花を手向け、そこで虚無的な顔を天に向けながら夕闇の中を過ごすシーンは圧巻でした。こういうシーンがあるからこそ、手のつけられないほどの女遊びをしているポンに、観客はだんだんと感情移入していく。それは共演のキム・ヘス演ずるヨジンも同じです。彼女は、真実の愛を求めながらも、縛られるのが嫌で結婚ができないでいる。しかし、血の繋がらない子供のフンに愛情を覚えることによって「家族」というものの大切さに目覚めていくのです。それはまるで、それこそ換骨奪胎された、上質な古き良きハリウッド名画の伝統を感じさせるものでもありました。
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また、この映画はそれまでの韓国映画にありがちだった、真面目だけれど低予算ゆえの貧しさや、民族性を強調するあまりの「キムチ臭さ」のようなものを全く感じさせませんでした。どこがそうか・・・と言われると、例えば、韓国では普及し始めたばかりの高級アパートが舞台であったり、家具調度、壁にかける絵に至るまで、細心の注意が払われて貧乏臭さを排除していました。一例を挙げると、キム・ヘスの部屋にあって彼女の作詞家という仕事の中核をなすオーディオ・セットは、デンマークのB&Oという会社のものであり、映画の中のセットはベオラブ・ペンタという、ワンセット邦貨にして当時300万円を下らないというものです。日本のオーディオマニアにしても垂涎の代物でした。そのようなオーディオ・セットを当時の韓国人の一独身女性が、さりげなく部屋に置けたとは到底、思えませんが(なんせ乗っている車がアレですから^^;)、映画にゴージャス感とラクジュアリーなリアリティを与えるには充分だったと思います。

また・・・この映画ではキム・ヘスの健康的でゴージャスなセクシーさ、というものの魅力も存分に味わうことができました。このような、太陽みたいな向日性の健康なお色気を振りまく女優さん、というものを肯定的に描こう、とする映画も、おそらく韓国映画至上、初めてだったんじゃないかと思います。帰宅した彼女がジーンズを脱ぎ捨て、シャツとスパッツだけでソファーに横たわるところをストップモーションで映す場面・・・。そのB&Oのオーディオ・セットの前で、バスローブの裾をつまみながら、ボサ・ノヴァに合わせてダンスをしている場面・・・それをうっとりと眺めている、フン。彼女の肉体が発する輝くような女性美に私も当時、目がくらくらしたものでした(笑)。それから、脇役で出演していた若かりし日のユ・オソンや、『彼女を信じないで下さい』のタクシー運転手のおじさん役でも、その髭のコミカル演技が光っていたリュ・テホも実にいい味を出しています(^^)

いわば・・・、もう、「恨」でも「分断」でも、「民族悲劇」でもない、新しい普通の先進民主国家「韓国」を、自分達は体現するのだ・・・という、映画には自信と明るさが満ち溢れていたと思います。今見ると、女性のお化粧やファッションなどに些か古風な感じは受けますが、映画自体は当時のその輝きを全く失っておらず、とても楽しめました。韓国文化院のひどい日本語字幕!からちゃんとした字幕が見られたのも嬉しかったし。初めて見た、特典のトレイラーも「よくこんなものが残っていたなぁ・・・」と感動しました。また、キム・ヘスが作詞したと設定されている主題歌も、なかなかいいんですよ~!本当はぜひともスクリーンで見ていただきたい名作(実際、少し前までは韓国文化院だけがこの映画の版権を持っていたので、文化院のスクリーンでしか見られなかった)なのですが、このたび吹き替えも付いたDVDが出たというおめでたいこともありますので、是非皆様にご覧いただければ・・・と思います。
by cookie_imu | 2005-09-19 16:20 | 韓国映画・新しめ