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あるびん・いむのピリ日記

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『誤發彈(오발탄)』

間違いなく、韓国映画史上最高の監督の一人であるユ・ヒョンモク監督の、これまた最高傑作で、どのようなアンケートをとっても韓国映画史に燦然と輝く傑作として必ず五位以内には選ばれるという、韓国古典映画名作中の名作である。
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ああそれなのに・・・まるで当時のピンク映画(死語)のようなこのポスター!こうでもしないと、採算が取れるほど客が集まらなかったのだろうか。あるいは、当時のパク・チャンヒ軍事政権の目を欺くためか。しかし、軍事政権によって1961年、上映禁止処分となっているからおそらくは前者の理由によるだろう。ユ・ヒョンモク監督ご自身もティーチ・インで、「あの頃はお金がなく、僅か4万ドルで撮った。だから、撮り直せなくてNGシーンもそのまま使った」と仰っていたくらいだったので・・・

主演は当時のカリスマスター、キム・ジンギュ。彼の妻役として、これもまた当時のカリスマ美女スター、ムン・ジュンスク。といっても誰も知らないよね。キム・ジンギュは女優キム・ジナのお父さんです。どうです、少しは親近感が湧きました?これはそんな、私たちの親の世代の映画です。



重厚で、見ると確実に気が重くなる社会派映画です。気は重くなるけれど、しっかり感動して、そして見終わると実に傑作だ・・・としみじみ感じるような作品です。こういうのを本当の名作と言うのでしょうね・・・。主人公のチョルホは法律事務所の書記をしていますが、しくしくと痛む親知らずも治療できないほどの薄給です。そして、「解放村」といえば聞こえはいいが、朝鮮戦争後、瓦礫となったスラムのようなところに住んでいます。彼には、戦争で精神を病み、寝たきりになって「カジャ~!(行こう)」としか言えなくなってしまった老いた母と、臨月なのに栄養失調の妻、傷痍軍人のため満足に職に就けず、自暴自棄になっている弟、こっそりと米兵相手に春を鬻ぐ妹、何も知らずに服や靴ばかりねだる娘・・・などがいます。おまけに、彼自身は親不知が膿んで、お昼ご飯も食べられない有様。家庭も貧しく苦しく難問山積、かてて加えて激烈な歯痛・・・ということで、画面の中でも終始、苦しげな表情をしています。それがまた、実にはまり役でした!(^^)
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私にとって、神に等しい存在のユ・ヒョンモク監督が、なんとおん年80歳にして来日され、舞台挨拶のみならず、映画の後にはティーチ・インまでして下さる・・・という、夢のような企画の一夜でした。「韓国映画ビデオ文庫」という、古典映画のシリーズ(まだレンタルしていると思います)のなかで、『朴さん』に次いで二番目に見た古い映画です。どうせ古色蒼然とした、反共映画だろう・・・と考えていた私には、その現在でも全く色褪せていない(白黒映画なので些か語弊がある表現ですが^^;)、素晴らしく重厚で、「責任と孤独」という、いつの時代にも痛切なテーマを、衒いもなく、実にオーソドックスに、リアリズムを持って描いています。今回、字幕つき大画面で見て、改めてその感を新たにしました。
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ユ・ヒョンモク監督はお年を召してなお矍鑠としており、些か呂律は怪しくなったものの、私たちのためにしっかりティーチ・インまでして下さいました。特に、私は監督がハルモニになぜ「カジャー!」と言わせたのかとという積年の?疑問が、ある方の質問ですっきりと解けたので、とても爽やかな気持ちでしたつまりそれは・・・あっ、残りは12/25までやっているこの映画祭にお運びくださり、ぜひご自分の目で確認してみてください。とにかく、二見・三見の鑑賞に堪えうる、素晴らしい作品に仕上がっているなぁ・・・・・と改めて思いました。ぜひ皆様にもお勧めしたい、韓国最高峰の映画だと思います。
by cookie_imu | 2005-12-07 00:28 | 韓国映画・古め