さて、舞台は一転して、傷心のジキルを慰めようと親友アタスンが気分転換に連れて行った酒場の場面です。しかし…女性の皆さんには「オモモ!」と言われてしまうでしょうが、あの店は、どう見ても酒場とは表向き、裏で女給(古いな^^;)に春をひさがせている、娼館でしょう。まあ、時代が時代ですから、どうか「エマという婚約者もいるのに、そんなトコ、ジキル(=スンウ君、じゃないっすよ、ホントは)つれてったりしてもう、キイッ!!」なんて怒らないで下さい(^^;だって、そういうところに行かなきゃルーシーとも知り合えないじゃないですか!
ハイ、ご心配なく、ジキル博士も隅っこの方に座って、所在なげにショーを見ていて、なんとなく
もじもじしていましたよ(爆)。けど、踊り子達のレビューを見ているうちにスンウ君、だんだんくつろいだ表情になってきて…にこにこしながらじっとルーシーを見つめるようになる。これって、演技なのかなぁ(激爆)だって、ルーシーが凄くセクシーなんですよ。私が見たときはソーニャさんの役番だったんですが…彼女、本当に妖艶でした。男を虜にするプロの女…って感じでね。しかもAさん曰く「とても目力のある役者さん」なんですよね。思わずその瞳に引き込まれてしまいそうになる……。衣裳も赤い下着の華やかでセクシーなものでしたね。着こなしが艶っぽいのかも(笑)
付記・ソーニャさんも、その年のミュージカル最優秀新人賞を獲得しました。今回の日本公演には加わっていらっしゃらないのが残念です・・・
(こういうところが言葉が分らないから悔しい)、突如、酒場のマスターから殴られる。それを止めに入るんですね、ジキルは。こういう酒場での勝手が分らない紳士なのですが、とにかく彼女を助け起こしてルーシーを自分の席に連れて来る。その優しさに打たれたルーシーが「お名前は?」って聞くんですよ。で、「ヘンリー」ってやっと、
へどもどしながら名乗る。この間のスンウくんの純情さがいいですね!(^^)でまた、体は売っても心は売らない、奥底では汚れのない純粋な魂を持っているルーシーにいっぺんで惚れられちゃう訳ですね。ここいらへんの純情対決は、地味な場面ですが、見ているだけで微笑ましいものでした。けど、ルーシーにせがまれてもキスも出来ないジキル…。あの場面ははっきりいってルーシーの方が一枚も二枚も上手だったな(爆)。
そして夜も更け、ジキルとアタスンはジキル邸に帰る。いとまごいをして帰るアタスン。ケープを
従僕のプールに預けながら、亡くなったアボジ(父)の肖像画に話しかけるジキル…「お父さん、
僕はどうしたらいいのでしょう…」と。この場面ねぇ、実は私、このミュージカルの中で一番、印象に残った場面なんです。ここは、スンウ君、声と背中の演技だけで、その葛藤の全てを表さなきゃならない。要するに、抑制に抑制を重ねないとならない場面なんですね。それが見事に出来ている。つまり、スンウ君は「溜める」演技が出きる人なんだ、ということがはっきり分った場面だったんです。怒鳴り散らしたり、派手に踊ったり、百面相したりするのは、極端な話、練習すればある程度、誰にでもできることだと思うんですが、練習しても出来ないのがこの「引き」、抑制する演技。これが素晴らしかった時点で、私のスンウ君の演技の才能にに対する信頼は、磐石のものとなりました♪
そしていよいよ、研究室での場面に突入です。舞台の小道具が左右に引かれると、アルコールランプが怪しく揺れる研究室の場面になる。頭上には巨大な鏡。こういったディティールに拘るところが舞台により迫真性を与える、とつくづく思いました。そして、なにやらぶつぶついいながら記録をつけるジキル。ここいらへんでのスンウくんのセリフが面白いらしく、観客がわっと受けるんですが、やっぱり言葉が解らずで悔しい!
さあ、ついにジキルは決心して注射器を腕に刺します。薬の威力はすぐに現れ、のたうちまわるジキル…そして遂に、ハイドに変身するジキル!おお、いつのまにかドレッドヘアのヅラが!!なんて、突っ込んでる場合ではないのだよ。ほんとにこの場面は凄いんだから。突如スンウ君の声量も二倍になるし、声に憎悪のトーンが交錯して入ってくるし。腕をグッ、グッとせり出し、突き出し、振り回しながら荒れ狂うハイドの姿には、真に鬼気迫るものがありました。ああ、私はこの場面、本当に息を詰めて見ていたので、危うく窒息するところでした(笑)。それにしても…いままで押さえに押さえていたものを一気に解放した感じのスンウ君…ほんとに気持ちよさそうだったなぁ…。ここにはもう、映画でみるあの、優しく人のよさそうなチョ・スンウの姿は微塵もありませんでした。。。
……さて、みごとハイドへとの変身を遂げたジキルは、本能と欲望のおもむくまま、ルーシーの待つ酒場宿へと突進していきます。ハリウッドで盛んに作られた映画ですと、ここでルーシーに該当する女性を自分のモノのし、さらにサディスティックに痛めつけ、恐怖で逃げることも出来ないようにする場面が事細かに描かれるのですが、舞台ではスンウ君がセリ台?のような物に乗って雄叫びをあげるところで終わってましたね・・・この辺が、「ブロードウェーで最も美しいホラー」と言われるゆえんなんじゃないか、と思いました。あまりにも露骨な行為は避けるんですね。様式美、というのかな、歌舞伎じゃないんだけれど(笑)。
というわけで、暗転した次の場面は、「何かあったら私を訪ねてきなさい」といって名刺を渡されたルーシーが、自分の馴染みの旦那となったハイドの、あまりの横暴と虐待に耐えかねて、ジキル邸を尋ねてくる場面です。ジキルが実はハイドとも知らず、助けと治療を求めるルーシー。一目その肩の傷を見るや、あわててプールを呼んで治療の用意をさせるジキル。そして、何度も男の荒々しい手に抱かれたであろう、しかし、まるで乙女のような初々しいはにかみを以って、ジキルにその肌を見せるルーシー。その、魂の純粋さを表すように、彼女がつけて来ていた下着の色は純白…「おー、さすがにおぢさん、そーゆーとこ、よー見とるわ」なんて、軽蔑しないでくださいよ!ここは、その恥らうルーシーに対し、医師としての責務から、真剣に治療をしてあげているハイドが、思わずその肌の滑らかな美しさに、微妙にこころが揺れる場面なんですから!ああ、ここもステキな場面だったなー!
スンウ君は、優しくしてもらったハイドに対する感謝が思慕の念となったルーシーの「どうか助けて!あなたの奴隷にでも何でも、なりますわ!」という心からの懇願に負けて、遂に!エマを思いつつもルーシーにキスしてしまうのです。その時の、スンウ君の微妙な心の震えとおののき!ためらいながらルーシーの肩にまわす手に、徐々に力がこもっていったところに、なんて芸が細かいんだ!と感心しました。しかも、その辺がスムーズで滑らかなんですね…これは、やっぱりルーシー役のソーニャの演技力に負うところが大きかったと思いました。エマをも愛するがゆえに苦しみがにじむ。さらに、自らがハイドになったときに、どう振舞うか、を解っているがゆえに葛藤する。その辺りの表情の変化も秀逸でした。また、ここで歌われる、ジキルを慕うルーシーの深いアリアが素晴らしく、私はほんとにソーニャさんのファンにもなってしまいました(爆)
そして、場面は一変します。とある裏通と思しき場所・・・。ハイドとなったジキルは、自分の病院の理事であり、あの理事会で自分の実験に反対した牧師に絡み、殴り倒し、ステッキで打ち倒し、散々になぶり、あまつさえアルコールをかけて焼き殺してしまう!いや、凄かったですよ。まさに別人格!!先ほども言いましたが、ステッキで打ったりする所はリアリズムではなくて様式的なんですが、その様式性の中で観客に十分の荒々しさを見せ、理性のたががはじけとんだ、狂気の姿を見せる。ここは圧巻でした。そして、舞台から本当に火柱が上がったときには「おおっ!」っと思いました。日本だったら“消防法”とやらで、あんな思い切った演出はできないかも…と。その結果に満足げに笑うとジキルは去っていきます。そして、ああ、やっとここで前半(act1)が終了になるのでありました(笑)。
そして休憩時間になって周囲が明るくなり、興奮と緊張のあまりぐったりと疲れた私がそこにいました。