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あるびん・いむのピリ日記

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『東京タワー』

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                  (C)amazon.comこの本を読む
黒木瞳とか、岡田准一、寺島しのぶ…なんて、自分とは一番遠い世界の人々だと思っていましたんで(笑)、この手のロマンティックな国産ラブメロには一切、手を出していませんでしたか、ある寺島しのぶの熱烈ファンの方のお誘いにより、まあ、たまには韓国ラブメロ以外の映画も鑑賞しておくか…と、遂に見に行ってしまいました(^^;

原作は立ち読み程度しかしていなくて、さらに江國香織さんの著書もほとんど読んだことがないので偉そうなことは全くいえませんが、やはり、なんていうか、中年のおぢさんには全くの現実感のない、夢物語にしか思えません。「源氏物語」雨夜の品定めの昔から、若い美男子が年上の女性を誘惑し、恋に落ちる…という話は枚挙に暇がないのですが、まず、若者側に、ただ性欲を満たすためだけではない、あるいはディンジャラスな恋に、日常のアンニュイさを紛らす、というだけではない、という説得力が欲しいんですよ。だけど、青年達には日常の恋人もいれば、大学生活、バイトもある。何一つ不自由なく暮らしている。では、アールデコ調の世紀末的デカダンスの香りがするかといえば、そうでもない。要するに(役者本人に、じゃないですよ、誤解なきよう)若い二人の男性に、知性と教養のかけらもないんです。そんな若者に、自らの欲求不満の解消とばかりに肉体をぶつけたのではなくて…トゥルー・ラブを求めたんですのよウフフ、という不倫の言い訳をしても、現実感が湧く訳は無いではないですか。相手の体を求める前に、相手の心や感性に触れ、そして恋に落ちる。六条の御息所の場合も、そうやって源氏とやるせない、奈落の恋に落ちたのですから…。

でもそうやって、無知な若い男にワインだのラフマニノフだの教え込んで、自分の籠の鳥にする…っていう願望は、多分、ある年配以上の、もしくは有閑家庭婦人の?永遠の願望かもしれない。しかし、大部分の汗水たらして真面目に働いているお父さんにしてみれば、「カンベンしてくださいよ」っていう世界でしかありえない。ただの「まわりを取り巻く空気感」だけで恋に落ち、家庭までメチャクチャにされちゃかなわんのですわ。古い価値観なのかもしれないけれど、そこに有島武郎じゃないですが、「惜しみなく愛は奪う」っていう、相手に対する切実な欲求があれば別なんですけれど、岡田君演じる小島透には、どうもそういう気概がない。「オモチャにされるのはいやだ」っていう自分のプライドを傷つけられたとか、黒木瞳演じる詩史の世界観の中で飼いならされてきたから、いまさら他の女性に関心がもてない、なんていうのは、男性からしてみれば最高にカッコ悪いわけですよ、だって自分のアイデンティテイを確立できてないわけですかららね。「なんだ自己も持ってない、未熟なこいつは」ってな感じです。

対するに、寺島しのぶと松本潤の不倫話のほうは、まだしも現実感があり、寺島しのぶの相変わらずのすごい演技力には舌を巻きましたし、フラメンコの場面も素晴らしかったです。が、それは寺嶋しのぶがすごいんであって、この映画の中で、それでも相手をどうしても切実にお互いを求め続ける…という必然性をどうしても感じない。そこに、この映画の、単なるテレビドラマ以上の域を脱しない虚構性を感じてしまうわけです。

女優の皆さんは年齢を重ねても十分美しくて魅力的だし、映像は美しく、ノラ・ジョーンズの音楽も切なく、丁寧に作ろうとする監督スタッフの意図は分りますが、要するにやはり観客を選ぶと言うことでしょうか。また、映画のラストも小説とは大幅に改編されていますので、小説のファンである方も、映画は別物と思われたほうがよろしいかと思います。今回はだいぶ辛口のレビュウになってしまい、申し訳ありませんでした。
by cookie_imu | 2005-01-23 12:17 | その他邦画・洋画