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あるびん・いむのピリ日記

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『愛する時話すこと(舞台挨拶付き)』

先ほどプサンから帰ってまいりました。どう言ったらいいのか・・・上手くいえませんが、とにかく、お帰りなさい、僕の「大好きな」ハン・ソッキュ!
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「ハン・ソッキュ、8年ぶりのラブストーリー」と銘打たれた本作は、新人監督ビョン・スンウクが、お相手女優に今最も油の乗っているベテラン女優、キム・ジスを迎えて作り上げられた、珠玉の佳品でした。「大人の八月のクリスマス」とも称されるこの作品世界に、2時間の間、とっぷりと心地よく浸ることが出来ました。



ハン・ソッキュは母と二人で心身障害のある兄(イ・ハンウィ)の面倒を見る薬剤師、イングを演じています。一方のキム・ジスは、東大門市場でコピーデザインの服を売るややハイミスになりかけたデザイナー、ヘランを演じています。ある日、コンビニで朝食を取っていたヘランに誤って兄が絡み、それをハンソッキュが引き取ります。その後偶然イングの薬局に二日酔いの薬を求めにやってきたヘランは、兄を認識してイングと再会します。共に家庭の事情から結婚できずにいたイングとヘラン。二人は「大人の恋」を演じながら、心は徐々に接近し、そして固く結びついていくのですが・・・。
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この二人の心の接近と、心身ともに結ばれていく様子を、監督は淡々と、しかし実に丁寧に描いていきます。それを受ける主演二人は説明の必要もない演技派ですから、その細かな日常の中に宿っていく愛情の真実を、濃やかに、陰翳を伴った深みのある演技で掘り下げていきます。まさに問答無用、ハン・ソッキュの真骨頂が発揮されていきます。久々に彼の横顔に、微細な表情の変化に、ただ後姿を見せただけで漂う哀愁に、まさに二時間の間、たっぷりと酔いしれることが出来ました・・・
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しかし口さがない評論家の中にはこの映画を「八クリの二番煎じ」と呼ぶ向きもいるようですが、それは当たらないと思います。なんせ、主演二人の背負っている実人生時間が齎す人間的な深みが違いますから・・・!「八クリ」では、ただ天才的な感性の元で演技していたハン・ソッキュは、同じようなパターン演技に陥ることを恐れ、ラブメロを8年も封印していたのではないでしょうか。その間に、彼の映画人生には様々な浮沈がありました。ファンなら誰でも知っている苦悩と挫折ですが、それが現在の彼を一回りも二回りも大きくし、その「酸いも甘いも噛み分けた」大人の演技が今ここに見事に結実している・・・という感慨を抱くのは、私が彼の熱心なファンだ・・・ということだけでは量れないものだと思いました。
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実際の薬剤師としてのリアリティは私には分かりませんし、本当に薬を扱う方なら、彼が冒頭に自分の薬局で「してしまう」ことにきっと違和感を感じられることでしょう。しかしながら・・・韓国に久しく生活する者にとっては、それにすらも「実生活的な」リアリティとして、しみじみとした生活感のバックボーンを感じ取ってしまったのでした。
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ですが・・・画像からもお分かりのように、監督が『八月のクリスマス』にオマージュを持って作品世界を作り上げていることもまた、事実です。なんせ、障害を持つお兄さん役はあの「チョルグ」なんですから!これでは前作と何かと比較されるのも無理はありません(しかも、兄弟二人の関係性にはあのイ・チャンドンの名作『グリーン・フィッシュ』の雰囲気すら感じ取れます)。ですが・・・、監督はこのことを敢えて承知の上で、その上に立った「大人の恋」を描き、そして成果を挙げているように私には感じられました。なぜならチョルグ役だったイ・ハンウィもその後多くの作品で演技を磨き、そして見事に「八クリのチョルグ」を超越したお兄さん役を好演しているのですから!
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舞台挨拶も、その主演二人の俳優としての人生年輪を豊かに感じさせてくれるものでした。通常なら「見に来てくださってありがとうございます」程度でそそくさと終わってしまい、次の劇場へ向かうものなのですが、ソッキュ氏は「プサンに来るのは久しぶりです・・・」と切り出しながら、大学生の時からのプサンにまつわる思い出を語ってくれました。キム・ジスさんも「私の初恋はプサンだったんです・・・」という思い出話をしみじみと語って、まさに「成熟した大人の女優」を感じさせてくれました。
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私はどうしても舞台挨拶が見たかったので前日の夕方にプサン入りし、ロッテシネマに向かったところ、幸いにもまた最前列の席をゲットすることが出来ました。そうしたところ、キム・ジスさんが挨拶の最後に「最近私が一人の時に読んで感動した『マシュマロイヤギ(あのアニメのマシュマロではありません!)』という本をプレゼントしたいと思いますが・・・誰か、会場にお一人で来られた方はいませんか?」と呼びかけられました。私はまさしく「一人」だったので、素直に手を上げました(まあ、こういう映画、しかも舞台挨拶に一人で来る観客なんて他にいないでしょう・・・^^;)。するとジスさんは私を舞台に呼んで「どちらからいらっしゃいましたか?」と聞かれました。
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そこで私はまた素直に「日本からです。ハン・ソッキュさんのファンです。」と答えたところ、なんとソッキュ氏は「オー、イルボンブンイセヨ!」と言って、握手してくださったのです!とても暖かな手でした。その後、キム・ジスさんから本を頂き、こちらも握手して頂くことが出来ました(^^)ジスさんの手は、繊細で華奢なしかし暖かな手でした・・・

そして席に戻り、舞台挨拶は終了し、映画が始まったのですが・・・終演後本を開けてみてまたまたビックリ!お二人のサインがしてあるではありませんか!!本当に皆様を羨ましがらせるようなことばかりで申し訳ございませんが、私自身も夢を見ているようで・・・正に奇跡の連続だ・・・と思いました。・・・いや、これは韓国に単身で来て、家族に会いたくて寂しい私を憐れんで、神様が私に下さった、一足早いクリスマスプレゼントに違いない、きっとそうだ!そう思うようになりました。

暖かなプレゼントに、心温まる映画。APTに帰って妻に早速報告すると「よかったね!」と言ってくれて、さらに心がほっかりとしました。これからの季節、寂しい人にもそうでない人にも、心に暖かなともしびを灯してくれる・・・そんな映画『愛する時に話すこと』を、ぜひお勧めしたいと思います。
by cookie_imu | 2006-12-03 23:25 | 韓国映画・新しめ