あるびん・いむのピリ日記

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「RENT」鑑賞記(超長文)

正直に告白します。このミュージカルがこれほどの完成度を持つ名作だとは、分かっていませんでした。小劇場で行うに適した、ちょっとしたロック・ミュージカルの小品だろう、と・・・
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それゆえ・・・私は全く何もミュージカルに対する予備知識を持たずに出かけたのです(もともと事前学習をするのは予断を持ってしまう虞れがあるため嫌いなのですが・・・)。知っていたのは、NYの片隅に住むマイノリティな若者たちが、家賃(RENT)すら払えず、それでも明日に夢をつないで共に生きていこうとする青春群像劇である・・・ということだけ。そして、その主役の一人、ロジャーをチョ・スンウ君が演じる・・・ということだけでした。暖かく晴れた2月9日の午後、少し早めに会場となったテハンノのシンシ・ミュージカルシアターに私は無事到着しました。入り口ではご覧のようにスンウ君の看板がお出迎えをしてくれました。



セットはもう完全に用意がなされていて、幕は開いた状態で(幕は使わない劇でした)開演を待っています。もう、胸がドキドキ、しきりに汗も流れてきます。そんな中、隣に座られた男性が日本人で、しかも韓国とミュージカルのお好きな方だと分かり、開演前に少しお話しすることが出来てちょっと気持ちが楽になりました(^^)
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さて・・・いよいよ開演!暗転のまま役者さんがそれぞれの位置につきます(スンウ君も!)舞台が明るくなると、気のなさそうな仕草でギターを爪弾いているスンウ君の姿が目の前に迫ってきました!うーん・・・、さすがにこれだけ小さい小屋の前から3列目・・・というのはスゴイです!スンウ君の目じりの笑い皺まで(!)バッチリ見えてしまいます。そこには、Tシャツにジーンズという、普段着のままの(多分そうでしょう^^)ノーメイクに近い(無精ヒゲっぽいのはメイクのうち?笑)実年齢そのままの、等身大のスンウ君がいました。

でも・・・ジキハイのときと全然違うのは・・・なんというか、とても元気がなく見えるのです。ジキハイの時のように「さあ、これから演ずるぞ!」という生気が漲っていたスンウ君とはまるで正反対の、悄然として背中を丸め、所在無げにギターをチューニングしているスンウ君。いつもの笑顔さえも投げやりに見えます。筋を全く知らないで臨んだ私は「これはどうしたことだろう・・・」と訝しく思っていたのですが、やがて始まった、これも主演の一人、マーク役のナ・ソンホ君のナレーションを聞いているうちに、元恋人をHIVで亡くし、それ以来ふさぎこんで作曲も演奏も出来なくなっているのだ・・・という事情が飲み込めてきました。それからは・・・彼のこのしょげこんだ姿も演技の一部なのだ・・・と分かって、安心して劇に向かうことが出来ました(^^;

そしてもう一人のルームメイト、コリンズ(チェ・ミンチョル)が帰宅直前、暴漢に襲われ、それをドラアグ・クィーンのストリート・ドラマー、エンジェル(キム・ホヨン)が救う・・・という場面が続きます。このエンジェル、いわゆる女装パフォーミング・ゲイなんですが、高音部のファルセットの使い方が実にナチュラルで、最初は思わず「女性か?」と思ってしまうほどの歌いぶりでした。そして仕草も実に女形ぶりが効いていてチャーミングなんですねえ!思わずスンウ君そっちのけでほれ込んでしまいそうでした(爆)。

場面は変わって、出かけようとしているマークに「どこへ行くのか?」と声をかけるロジャー。マークは、別れた恋人、モーリーン(チョ・ソヨン、ご存知スンウ君ヌナ!)のストリート・パフォーマンスを手伝いに行く・・・と言うのです。気分を変えるために付き合わないか?という誘いを断るロジャー。彼は恋人の死後、たった一曲の傑作を書くことだけに精魂を傾けていたのでした。

「その歌とはね・・・」と、スンウ君が最初のソロ曲「ONE SONG GLORY」を歌い出します。「ノレ・・・」あーっ、キターーー!!これこれ、これを待っていたんですよ!優しくソフトな語り口のような歌い出しから、徐々に色温度が熱を帯びて盛り上がってくるようなスンウ君の歌唱!苦悩と絶望、しかしその中にも失われない情熱を込めて切々と歌い上げるスンウ君の姿に、思わず陶然となり「ああ・・・この一曲だけでも見に来た甲斐があった・・・」と思いました。

でも第一幕でスンウ君の歌がじっくり味わえたのはこれだけで、あとは生涯をかけた恋人となるミミ(コ・ミョンソク)との邂逅、そしてエンジェルを連れ、ご馳走と大金を抱えたコリンズの登場となります。ミミは可愛らしくキュートで、スンウ君は彼女に振り回されっぱなし・・・という感じです。後でお隣のミュージカルファン、Iさんに伺ったところ、ブロードウェイ版ではもう少しロジャーはクールで虚無的、最初はミミに冷たく当たっている・・・との事でしたが、なんていうかスンウ君の人柄の良さ全開と言うか・・・冷たくしようにも、どうしても「他者に対する基本的な暖かさ」みたいなものがにじみ出てきてしまうんですねえ(笑)。で、それからはロジャーは全体の中でのアンサンブル重視のようなスタンスに置かれていたためか、わたしもエンジェルのステキな!演技に心奪われていたためか、あまりスンウ君一人を見つめるということは無く、全体を俯瞰するような感じで鑑賞していました。(と書くとカッコいいんですが、その後の家賃滞納をめぐる攻防といった全体の筋や歌唱を追うのに精一杯で、ちょっとぼんやり舞台を眺めていた・・・というのに近かった・・・ということも告白しちゃいます^^;)

そうこうしているうちに場面は変わって、クリスマスに賑わうとある広場。マークに誘われるようにしてしぶしぶ外出したロジャーですが、ここでオートバイに乗って颯爽とモーリーンが、ホームレス立ち退き反対を叫ぶストリート・パフォーマンス「OVER THE MOON」を強行しに現れます!
 いやあ・・・噂には?聞いていましたけど、スンウ君のお姉様、もの凄いテンションですねえ!!もうあっけに取られて呆然としてしまいました(^^)。もちろん演技なんでしょうけど、スコーン、と突き抜けた青空のようなというか何というか・・・。あの明るさは、きっと天性のものなんだと思います。なんだか「しっかり者のお姉さんにがっちり守られて、優しく思いやりのある(決して人に悪く当たれない^^)好青年に育った弟」っていう、チョ家の家庭の構図までが手に取るようで(笑)なんとも微笑ましいものでした。モーリーンは観客に「ムーン!」の部分を歌わせるんですが・・・最初は観客席のお客に個別に無理やり!?歌わせて(後でそれもアドリブではなく劇の一部だと分かりましたが)いて、3列目に座った数少ない男性の一人だった私は思わず「ムーン!」を当てられるんじゃないか・・・とびびってしまいました(爆)でもその後は観客席も全員で「オーバー・ザ・ムーン!」を合唱し、冷や汗ながらも大満足でした。そしてこれもミニシアターならでの、演者観客一体となったミュージカルの楽しみなのだ・・・と知ることが出来ました。

 そして1幕目の最後。HIV感染者が必ず4時間ごとに飲まなければならない薬を服用するミミの姿を目にしたロジャーは、それまでミミの元カレだったベニー三世(貸家のオーナー、元々はルームメイト)との仲を疑うのもやめ、一気にミミに心を開いていきます。「あなたも・・・だったの?」そう、お互いHIV+であることを言い出せなかったロジャーとミミ。ここでの二人のやり取りは圧巻で、それまで全体の群像の枠を壊さずにじっとしていたかに見えたスンウ君が、突如その壁(!)をぶち破って心震わせるような声と表情で語りかけたのでした!その突然の変容と急激な情感の昂ぶりの様に、私は思わず小さく「あっ!」と声を上げてしまいました・・・。
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さて・・・わずか20分の休憩で冷めやるはずも無い興奮を抱えて席に戻って来た私を迎えたのは、これまた度肝を抜く全員によるゴスペルコーラス「SEASONS OF LOVE」でした。主演者の一人一人(もちろんスンウ君も)がリードを交代しながら「1年という時間、525600分。一生のうちのこのかけがえのない時を、何を目安に、どうやって計れば良いのだろう?」と歌うさまは壮観の一言で、「クゴスン、サラン、イゴスン、サラン(それが愛、これが愛)」のコーラスのところでは思わず一緒に歌ってしまいそうでした。

それからの舞台はもう急展開!っていうか、助走が長かった分、ホップ、ステップ、ジャンプの三段跳びで・・・もう、ロジャーとミミとの切ない喧嘩別れ、胸を抉るようなエンジェルの死、そして悲痛なコリンズの叫び・・・とめまぐるしく、いきなり二段ロケットから三段ロケットにどっかんどっかんと点火されたような気分でした。ああー!こんなことなら1幕目の群像劇を、もっと目を皿にして見ておけば良かったと・・・後悔の臍を噛んでも始まりません。ちょっとしたスンウ君のミミへの仕草、言葉のやり取りのアイロニーが、全て2幕目のエモーションへの周到な伏線になっていることに遅ればせながら気がついたからです。ああしかし・・・後の後悔先に立たず。舞台はどんどんと最終章に向かって突き進んでいきます。「WITHOUT YOU」を歌うミミとロジャーの表情の切なさ・・・スンウ君の瞳の色がどんどん、憂愁を帯びたものに変わっていくのが、手に取るように見て取れます。

そしてまた・・・エンジェルの死でコリンズが歌う「I'LL COVER YOU」とか、マークが商業主義の仕事を引き受ける際に歌う「HALLOWEEN」とか、ああ、そして遂にミミとの別れとなる
「GOODBYE, LOVE」とかいったマイナーチューンの、胸を締め付けるような名曲の数々が、息も継がせぬようなテンポで歌われるんですよ。もう、こっちも狂おしいほどの苦悩に同調するしかなくって・・・それでね・・・スンウ君もミミ役のコ・ミョンソクさんも、本当に泣いてるんですよ・・・気の入った演技だなあ・・・と思って見ていて、目の前に近付いてきたら二人とも涙の筋が数行、頬に残っていて。。こんなに魂が籠もってたんだ!と、本当に思わず膝がガクガクしてしまいました・・・・・・

とうとう最終章。瀕死の状態で痩せ細り、広場にうずくまっていたミミが発見され、ロジャーの許に連れてこられます。抱きかかえ、撫でさするようにミミをいつくしむロジャー。いまわの際のミミにロジャーは探しあぐね、書きあぐねていた最後で最高の一曲「YOUR EYES」を捧げます。この時のスンウ君の絶唱っていったらもう・・・。なんて表現したらいいんでしょう。身悶えするような魂の叫び。愛するものを見送らなければならない辛さ。「マルル、ハルケ、マルハルケ(お願い話して、話して)・・・」声の一つ一つが、音符と共に涙の結晶となって舞台に滴り落ちていくようです。そして最後のスンウ君の「ミミー!」の絶叫・・・!まさに、魂を全部スンウ君に持っていかれました・・・・・・

でも・・・この歌の時はスンウ君は「泣いてない」んですねえ!ご存知のように、ミミは死出の旅の途中でエンジェルに会い「まだこっちにきちゃダメ。生きるのよ!」と追い返され、復活するんです。そのエンディングに向かって余韻を深め、希望と歓喜を歌うため、寸前で感情の切り替えをしているんですよスンウ君は・・・!スンウ君の素晴らしさ・凄さはイヤというほど分かっているつもりだったんですが、今度という今度はもう、腰が抜けるほど口あんぐりでした。っていうまえに「こんな素晴らしい舞台に立ち会えたんだ・・・」っていう恍惚感かな。今は冷静になってるんでこうやって文章に出来ますが(^^;最前列に近い位置で見られたからこそ味わえた、まさしくミニシアター・ライブの醍醐味でした。

舞台が終わって呆然としていたらカーテンコールです!当然のように、全員で「シーズンズ・オブ・ラブ」の大合唱。観客も手拍子していたら、突然スンウ君が手で「立って、みんな立って!」と合図、みんな大喜びで舞台を囲むようにして、演者観客一体となってシーズンズオブラブの大合唱を、踊りながら歌いました。ああ・・・嬉しかったなあ。もう、こんな経験、そう何度も出来ないだろうなあ・・・と思いながら、名残惜しく劇場を後にしました。

明日はない。昨日もない。
  運命より確かなものを信じて、生きる。
  今日を。今日だけを。
  No Day,But Today.

スンウ君が演じたから言うわけではないですが、この劇にはゲイやHIV+というマイノリティーに対する偏頗な視野の狭さを取っ払う、そんな力があると思います。人間に一番必要なものは「愛」だ!という当たり前の真理に垣根など無い・・・そういったことを改めて認識させてくれる戯曲としても、非常に優秀なものなのだということが分かりました。改めて「ありがとう、ジョナサン・ラーソン」!
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by cookie_imu | 2007-02-11 22:54 | 古典芸能・演劇一般