あるびん・いむのピリ日記

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マカン・ブッサール

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知る人ぞ知る、渋谷のんべえ横丁の名店である。のんべえ横丁とは、新宿の思い出横丁と並ぶ、戦後の再開発から取り残された飲み屋街である。渋谷駅から徒歩0分、山手線のガード脇の、僅か50平米ほどの土地に、四十軒ほどの店がひしめく。初めて訪れた人は、「こんなレトロな飲み屋街が渋谷にあったのか」と、タイムスリップしたような目眩にも似た気持ちを抱くことだろう。現に私もそうだったから…。小料理屋あり、バーあり、居酒屋あり…で、どの店も、せいぜい六、七人も入れば満杯になってしまうような小さな店で、常連さんで持っているような店が多い。一見の客は入りづらいのだが、一度思い切って入ってしまえば、次からはもう、気分は“常連”である。




というより、偶然、飲み会の二次会で入って以来、常連となった店で、その店以外は今のところ行ったことがない(笑)だから、他の店と比較してどうこう、ということはできない。ご多分に漏れず、この店も古めかしく、五人も客が入れば満杯のような店である。名前を「マカン・ブッサール」という。
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入ってみようと思ったきっかけは、酔っ払っていたので、とりあえずどこでもよかったのだが、このなんとも不思議な店名に惹かれて入ったのだ。お店の名前の由来は、入ってすぐに分ったが、それは内緒にしておこう。ここはそして、のんべえ横丁の中でも創立五十年を越える、屈指の老舗である、ということも徐々に分ってきた。そのお店の中に、設立当初から渋谷を見つめ続けてきたママさんがいる。年齢は知らない。七十は超えているだろう。ただ、店の歴史の倍はいっていないのは確かである。そしてこの、一見ぶっきらぼうなママと、ちょっと話をするだけで、なんとなく実家に帰ったような寛ぎを覚えるのだ。
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お店の中は、撮影禁止である。なに、ママさんが「やめてよ」と言ってるだけであるが、出入り禁止にされると困るので外観しか載せない。店は、普通の和風の居酒屋である。いや、居酒屋というのもおこがましいほど、何もおいていない。あたりめ、おしんこ、ラッキョウ、ピーナツ、冷奴…そんなものがいくつか品書きにあるだけで、後は冬場なら冷奴が煮奴や湯豆腐に変わり、おでんが加わるくらい。お酒はビールと日本酒、焼酎のみ。銘柄指定なんてない。ママさんがお燗したり、注いでくれたものを黙って飲むだけである。

では…なぜそんな無愛想ともいえるお店にせっせと通うのか…といえば、もうこれはその「ホッと一息つける」という雰囲気に他ならない。ここは、若者がわいわいとお喋りしながら飲む店ではない。サラリーマンが大挙して、仕事や上司の悪口を肴に、声高に喋りながら飲む店でもない。そんな飲み方に疲れた大人が、自分を取り戻すため、心を癒すために憩う場所なのだ。おっとと、偉そうに「大人」などと書いたが、これは実年齢を意味しない。自分が大人に、そして社会との軋轢に疲れた「大人」になった…という自覚?のある方はどなたでもどうぞ。しかし、性差別などはもちろんないが男女共に「子供」や「若者」は入れない。入店しようとしても目に見えないバリアーに、きっと阻まれてしまうであろう。

だから、つまみもお酒も、あったらあったなりでいいのである。とはいえ、出してくれるつまみや料理の類は、ママさんの暖かな気遣いが行き届いていて、どれも乾いた心に沁みるように美味しい。よく味の染みた、しかし上品な出汁の味のするおでんの大根やがんもをつつきながら一杯やっている時間…仕事に倦み疲れ、都会の喧騒から逃れたくなる自分に、熱燗の湯気のむこうをぼんやりと夢見る時間を与えてくれるひと時である。ただし、その夢時間のお値段はそう安くはない。なんといっても渋谷のど真ん中であるから、熱燗一本におでんと突き出しで二千円くらいは取られるから、その辺はお覚悟の程を。
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by cookie_imu | 2005-02-14 23:10 | 各国酒・ごはん