副題が「韓国語を学んで」という、詩人の茨木のり子が、彼女の韓国語の師である金裕鴻(キム・ユーホン)と対談したもの。2004年7月、筑摩書房刊行の茨木のり子に関する最新刊である。
キム・ユーホン先生は、長年朝日カルチャーセンターで講師をされ、日本の韓国語教育の草分け的存在でもあり、第一人者でもある。対するは、石垣りん亡きあと(というのもヘンだが)日本の女性詩人の第一人者である茨木のり子。有名なユン・ドンジュの「序詩」を紹介した文章が、筑摩書房刊行の、高校国語教科書にも載せられているので、それを思い出される方も多いのではなかろうか。ユン・ドンジュにとどまらず、多くの詩人とその詩を紹介した、『韓国現代詩人選』(花神社刊)も翻訳・編集している。
茨木のり子自身の詩も、たとえば「根府川の海」とか「汲む-Y.Yに」とか、「自分の感受性くらい」等など、小学校から高校までの教科書に、必ずと言っていいほど載せられているから、その名前をご存知の方も多いのではなかろうか。実生活に根付いた、平明な言葉で人生の深奥を詠う。谷川俊太郎と共に、私が最も好きで、尊敬している詩人である(前は石垣りんもそうであったが)。彼女の紹介を通して、私も韓国の詩人に親しみ、そしてユン・トンジュを知るようになった。「序詩」を読み、その高潔な魂に、どれほど心震わせたか分らない。最初に韓国へ行った時も、韓国語で「序詩」だけは覚えていき、挨拶代わりにその一節を語ったことを覚えている。そのことで、相手の韓国人とどれだけ一気に親しくなれたか、その効用は計り知れない。それだけ韓国人に尊敬され、親しまれている詩人を日本の若者に、今も紹介し続けている。
その彼女が、自分の師と語った対談本がこの本だが、真面目な対談なんだけれども、あまり堅苦しくなく、肩の凝らない作りになっている。また、この対談集ではあまり詩の事は語られてなく、キム先生の日本韓観や、日韓のものの見方の違い、文化、習俗などについて、幅広く、また平明に語られている点も魅力である。茨木のり子自身も「冬ソナ」にはまってしまった告白なんかしていて、相変わらず感性が柔軟で、チャーミングな人だと嬉しくなった。ヨン様のことも「人の話を、じっと聞き取ってくれる人」と、その魅力の原点を看破している。チョナン・カンにも言及していて、「音楽をしている方の聴覚は素晴らしい」と誉めていて、なんだか嬉しくなった。ただ、キム先生も茨木のり子も、「ブームにだけ乗らず、もっと日韓の歴史を知ることが必要」と言っていて、それもまた納得である。詩に関心のある人も、そうでない人にもぜひお読みいただきたい一冊である。