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あるびん・いむのピリ日記

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『力道山』~苦悩する肉体~

元パンクラスの俳優、船木誠勝や元ZERO-ONEの橋本真也など、現役のプロレスラーも参加した本格的プロレス映画として話題になった、力道山の伝記映画。ソル・ギョングが役作りの上とはいえ、十キロ以上体重をアップして、筋骨隆々たるプロレスラーの体を作り上げたことでも驚愕の話題を振りまいた。監督は、『No.3』のソン・ヘソンの3作目。
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それは、クラブで飲んでいた力道山が、チンピラに刺されるという場面。結局、このときの傷が元で、彼は亡くなるのである。冒頭に、その力道山の栄光に翳りがさしていた場面を配し、物語は彼の相撲修行時代へとカットバックしていく。朝鮮人であるがゆえに、兄弟子から受ける虐待に次ぐ虐待。そして、彼はある日泥棒と間違われ、遂にキレてしまう。しかし、なんとか彼の潔白は晴らされるのだが、そのとき必死で助けを求めた勧進元興行主・菅野(藤竜也)にその才能を見出されるのだった。
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さらに彼は、芸者をしていた彩(中谷美紀)とも結婚する。そして1952年、アメリカの武者修行から帰った彼は、翌年菅野会長とともに日本プロレスを設立。柔道日本一を誇った井村(舟木)らと共に、反則技で暴れまわるシャープ兄弟を、空手チョップでなぎ倒し、当時の街頭テレビブームとの相乗効果もあって、たちまち国民的英雄として人気を博した。しかし、その人気とは裏腹に、彼は人生の暗い裏街道へと転落していくのであった・・・
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きょうび、120分前後の映画が全盛なのに、なんと137分・・・とにかく長かった~!
けど、いろいろ芳しくない前評判とは違って、かなり感動しました。苦悩する肉体…というのでも言ったらいいのしょうか。すべてを手に入れた彼は悩み、苦しみ続けた。一体、彼は何に悩んでいたのか。それはきっと、卓越した肉体と、故国、日本との狭間におかれた人生、それに予定調和の世界プロレス・・・などという、常に二面性にさらされる中で、「真実に強い自己」を希求する、肉体と精神のアンビバレントな「捩れ」ということだったんじゃないかと思います。そして、誰も、最愛の妻、彩でさえも信じられないような、深い精神の奈落に落ちていった…。彼が求めたものは、矛盾だらけで分裂する自己を統合することのできる、「世界最高の肉体」だったのではないかと思いました。
 「誰もが自分を腹の底では笑ってる」という、最後に追い詰められていった境地は悲惨だったと思いますが、やくざに刺され、死を目前にした雪の夜、彼はきっと、穏やかな諦観の世界にたどりつけたことでしょう。
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現実の力道山の伝記は知りません。裏社会との密接なつながりを指摘する向きもあります。また、実業家としての辣腕を指摘する向きもあったりします。しかし、映画はそれらを隠喩として匂わせる程度におくことはしても、あえて主題には取り上げません。その描く世界は、とにかく、力道山という人物の栄光と挫折の格闘人生です。それを実体化したソル・ギョンクの肉体は、実にやるせない悲しみに満ちています。そして彼の若いころの願い…「世界一強い横綱」、自らは朝鮮人として差別され、関脇止まりで予想すらできなかった世界は、この現代において、曙、武蔵丸、朝青龍…と続く、外人横綱の誕生で達成されたのではないかと思いました。

物心ついたころ、白黒テレビで、黒いタイツの力道山の奮闘に、幼心に興奮していた…
そんな思い出を如実に現実化した、ソル・ギョングのすばらしい肉体と演技に、とにもかくにも満腔の敬意を表したいと思います。やっぱり、彼は信じがたい俳優です。私はプロレスには素人ですが、あのリングの上での迫力はまごうかたなき「本物」だと思いました。映画の八割は日本語で、韓国語の字幕つき、という、韓国では受け入れがたいような映画にもかかわらず、「なんちゃって日本」映画や「反日日本」映画にもならず(表面的に些細な突っ込みどころはありますが^^;)、よくここまで思弁的に内容を深めることができたなぁ・・・というのは、正直、驚きでした。来年の初春に公開予定ですが、ぜひ多くの方に見ていただきたいと思っています。最後になりましたが、藤竜也が実に、滋味あふれるいい演技をしています。これも必見です。
by cookie_imu | 2005-04-05 01:44 | 韓国映画・新しめ