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あるびん・いむのピリ日記

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『甘い人生』

「僕の代表作となるだろう」と言い切った、イ・ビョンホンの入魂の一作、『反則王』『箪笥(薔薇、紅蓮)』で「はずさない監督」と異名をとるキム・ジウン作品、そして日韓同時公開と、何かと話題の多い作品である。私としては、大好きなキム・ジウン監督が、スーパースタービョンホンを迎えてどういう作品作りをするのか・・・と興味津々で、スクリーンに向かった。
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出演は、主演のソヌに言うまでもなくイ・ビョンホン。彼が愛する、ボスの愛人ヒスにシン・ミナ。そしてボス役には、TV界の長老、キム・ヨンチョル。あと、神話のエリックが映画初出演していることでも話題になっている。



とてもよく出来た作品である。しかし、傑作か・・・と問われるとうーん、と唸ってしまう。ちょっと待てよ・・・というところである。ストーリーはもう散々、映画の予告編CMなどで流されているのでご存知かと思うが、七年間、犬のように忠実に、ホテル社長のボスに対して「始末屋」として忠誠を尽くしてきたホテルマン・ソヌが、たった一度、ボスの女にほのかな想いを寄せた判断ミスで、組織全体を敵に回す・・・というものである。カテゴリーとしては、久々の本格的な韓国ノワールといったところだろう。香港ノワールのように饒舌ではないが、映像の隅々にまでキム・ジウン監督の「こだわり」が配置されていることは、前作『箪笥』となんらかわるところはない。
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さて、映画の八割は、血みどろの銃撃戦である。些細なことからかっとなって、お互いを許せず、銃撃する。そして、その銃撃による傷や死は、異様なリアリティーを持って描かれているので、書割のような形式的な死の描写を許さない。雑魚の手下一人が痛めつけられるたび、銃で撃たれるたびに苦痛にのたうち、リアルな銃創が出現し、血が噴出する。かなりの図太い神経の持ち主でもなかなか最後まで正視することは出来ないような、徹底した「超暴力」の世界だ。
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一般的なビョン様ファンの女性たち(失礼!)は、もう、この辺の陰惨な殺戮の無限連鎖が始まった時点で、申し訳ないが、映画そのものを「鑑賞」することを放棄されてしまうのではなかろうか。そして、「ビョンホンはカッコよかった」「空虚な眼差しが素敵だった」「アクションはさすがだった」という感想に逃げる(再度失礼)のではないだろうか。そこには、救いになるようなものは何一つないからである。そういった点において、タイプは全く違うが『インファナル・アフェア』の齎す“無間地獄”の苦しみに似ているかもしれない。しかも、女性としては一番感情移入しやすい、ビョンホンの愛する女、ヒスにも容易に思いを寄せることは出来ないのである。なぜなら、ビョンホンの彼女に寄せる想いはあまりにも淡く、「愛」とも言えないようなものであるから・・・
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しかし、そのあたりの実に微妙な「心の揺らぎ」を映画は見逃さない。いや、冒頭の場面にもあるように、それこそが、この映画の主題なのである。つまり、繊細で傷つきやすいボーイズ・マインドを描く映画だ、と言う訳なのだ。よく言われることであるが、男の精神は弱く脆い。女性は(というより、生物としての雌)は、存在の継続性という使命を負っているので、実に気丈に出来ている。これは人類普遍の原理といっていいであろう(多分)。その、傷つきやすく脆弱なところを、この映画では余すところなく見せている。理屈なんてどうだっていいのだ。自分の一番弱いと思っている部分、心の深奥の柔弱な部分にに触れられたのに、それを黙って踏みにじられるところがどうしても許せないのだ。ことの大小ではない、男の心のみみっちさである。よく言えば、純情さ、かな?
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だからきっと、女性はそういった男性心理の隠蔽された部分を、ほとんど理解できない、と思う。シン・ミナは完全に添え物である。「女性」というメタファー、記号ですらない。「大切なもの」というオブジェの形象に過ぎないのである。そこに徹底的にこだわり、男の弱さ脆さを最大限に引き出したところに、この映画の真骨頂と、今回のキム・ジウン監督の手柄があると思う。
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であるからして、傑作か・・・といえば、冒頭にあるように首を傾げてしまう。それは、やはりこの世の人口の半分は女性なのだから、いくらなんでも女性に対して、もう少し分かりやすく、かつ見やすく作るべきだったということなのである。確かに、女性をいたぶる様な場面は全くないから、そういう意味で女性を蔑視していないのはよく分かる。しかし、「どうしてそんなに破滅に向かうほど、超暴力に走るのか」というモチベーションに対しての答えは、女性側に対しては全く用意されていない。それはあまりにも不親切・・・というものであろう。逆に、ビョンホン氏にとっては、常に女性の人気を気にするような作品から脱却できたこと、男の弱さにとことん、拘れたことは快慶の至りだったに違いない。彼をして「自分の最高傑作」といわしめた要因が、ここにあると思う。

たいていの人は、一度見ればもう「お腹いっぱい」だと思う。しかし、この映画は一筋縄ではいかない。随所に仕組まれた、監督の仕掛け、というメッセージを見に行くだけでも、再見、三見に耐えうる映画だと私は思っている。
by cookie_imu | 2005-05-04 22:35 | 韓国映画・新しめ