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あるびん・いむのピリ日記

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『美しい夜、残酷な朝(スリー・モンスター 쓰리 몬스터)』

昨年日本で公開され、ピーター・チャン監督の『回家』が絶賛されるなどした、三人の監督の競演によるオムニバス・ホラー映画、『Three/臨死』の第二弾として企画されたものである。
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今回は、香港からフルーツ・チャン監督が『餃子』、日本から三池崇監督が『箱』、韓国からはパク・チャヌク監督が『CUT』をそれぞれ引っ提げて参加し、三者三様の独特な怪奇的世界を競った。



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一作目は、フルーツ・チャン監督の『餃子(Dumpling)』。先鋭で耽美的な映像で知られるクリストファー・ドイルが撮影監督を務めており、その幻想的な世界をたっぷりと堪能できる。ネタばれになると全く見る興味が減じてしまうのであらすじの紹介は控えるが、要は、永遠の美を求め、夫の愛を取り戻すために、究極の餃子を求めるブルジョア・マダムの物語である。このマダムを演じたミリアム・ヨンという女優さんが素晴らしい。そして、その相手役をする餃子料理人役のバイ・リンという役者さんの上手さにも舌を巻いた。二人ともなんていうのか、妖艶さと残酷さ、女性美と人間的醜悪さを実に上手く演じ分け、時に共存させているのである。有名なレオン・カーフェイもマダムの夫役で出演していたが、その存在感がかすむほどであった。話としてはありきたりな、先の読めてしまうホラーだとは思うが、この女優二人の妖しいまでの力演によって、第一級のホラーに仕上がっていたと思う。

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二作目は、三池崇監督が描く、悲しいまでに哀切な師弟の倒錯した愛を、伝奇的なサーカスの古色蒼然とした世界に封入した、ある女流作家のトラウマを抉り出すものである。ラストの持っていき方もなかなかよく、作品としてはさすが三池監督・・・と言いたいのだが、ファンの方には恐縮だが、いかんせん、映画経験皆無のTV女優、長谷川京子の演技がどうにも未熟で、全体の雰囲気を著しく損ねていると言わざるを得ないのである。彼女の素質を云々しているのではない。ただ、あの生硬さは、どうしても作為的にしているとは思えない。相対する男優の渡辺篤郎も、本来の実力を発揮できていないように見えた。しかし、その舞台装置や情景描写には、監督らしい情念を十分感じることが出来たため、いささか残念な思いが残った。

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さて、お待ちかね!?三作目が『オールド・ボーイ』カンヌ・グランプリで乗りに乗っているパク・チャヌク監督が、これまたいうまでもない韓流四天王の一人、イ・ビョンホンを主演にキャスティングして撮り上げた『CUT』である。皆がそうであるように、私も本作をとても楽しみにしていた。しかし、予想は思いもよらぬところで完全に裏切られた。いや、良い意味で(あくまでも私にとっては・・・という意味だが)裏切られたのだ。この作品の真の主演は、私の大好きな個性派脇役俳優、最近では『シルミド』の独特の演技で注目を浴びた、あのイム・ウォニだったのである。
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これまた話の筋を紹介してしまうと全く面白くなくなるので控えるが、簡単に言うと、エキストラ人生を送らされていたイム・ウォニ演じるしがない端役俳優が、ビョンホン演じる有名監督とその妻に対して復讐する・・・というものである。この、ピアニストであり妻である役を、『オールド・ボーイ』での熱演も記憶に新しいカン・ヘジョンが力演している。ご覧のようにピアノに縛り付けられ、猿轡までされているので表情でしかほとんど演技できないのだが、その恐怖感と苦痛を湛えた視線の演技は鬼気迫るものがあった。
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さて・・・いやー、肝心の皆様お目当てのビョン様も大熱演しているのである。私は彼の技量をとても高く買っている。今回は、全くいいところのない、地に落ちた二枚目役なのだが、従来の「キラー・スマイル」のハンサム俳優という先入観を覆すべく、これまた鬼気迫る演技であった。それはよく理解できるのだが・・・、今回はイム・ウォニの目を見張るほどの怪演と、カン・ヘジョンの熱演がそれを単に上回っていた・・・と言わざるを得ない。それほどの出来だったのである。最初から、どっかの地方訛りか、下賎さを出すためかは分からぬが、「アンニョンハセヨーォオ」というような、独特の鼻にかかった野太い不気味な声を出す彼の、鋭く狂気に満ち満ちた表情に釘付けになった観客は、もし彼をこの映画ではじめて見たとしたら、永遠に忘れないだろう・・・と思わせるほどの出色のものであった。
 最後に、この『CUT』は、まさしくパク・チャヌク的世界観を完全に映像化したものである。どうもスチル画像を見ると、もっともエグい場面は、それこそ「カット」したようであるが、それでも『オールド・ボーイ』以上に生々しく、目を背けたくなる場面満載で、むしろ短編のため凝縮されている・・・と言っていい。そのような世界に生理的嫌悪感を感じられる方は、目にすることすら拒否されるような、残虐世界が展開するであろう・・・ということは、一言いい添えさせていただく。
by cookie_imu | 2005-05-28 21:57 | 韓国映画・新しめ