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あるびん・いむのピリ日記

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『空き家』(3-iron)

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見終わった瞬間、ちょっとソファから立てないくらい感動しました。どのくらい感動したか、というと、『春夏秋冬…そして春』と『サマリア』を足して二倍したくらい。二で割るんじゃなくて、ね(^^)
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監督は、ご存知、キム・ギドク。最新作です。これを持ってベネチアに乗り込み、宮崎駿もイム・グォンテクも蹴散らして、銀獅子賞・監督賞をダブル受賞したことは記憶に新しいところです。『ハウル』はともかく(笑)、チョ・スンウのファンでイム・グォンテク監督を敬愛する私としては、ギドクファンでもありながら、「この映画は僅か十日間足らずで撮影した」とか言う話を聞くたびに、なんだか胡散臭い気がしていたんですよ。おいおい、本当にそんなもんで賞が取れるのかよ、って。。。
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でも、やっぱり百聞は一見にしかず、だなぁ。物事は自分の目で、しかと確かめてみなくてはいけない…とつくづく思いました。筋立ては至極単純です。バイクを乗り回し、空き家をピッキングしては、そこの住人が帰ってくるまで間借りしている主人公、テソク(チェヒ)。でも、ちょっと食べ物くらいは貰うけれど、その代わり故障している時計を直したり、散らかっている洗濯物を全部丁寧に手で!洗濯してあげたり。もちろん、何も盗んだり壊したりしない。ある時、ふと入った家で、夫の過剰な愛のあまり虐待されている妻ソンファ(イ・スンヨン)に出会う。彼は、いったんはその女性を見捨て逃げるのですが、彼女のあまりに哀しみに満ちた瞳が忘れられず、遂にゴルフクラブの3番アイアンでボールを打って夫を襲撃し、彼女は彼についてバイクに乗るのです。
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そして、二人で空き家を転々とする日々が続き、やがてお互いの間には愛が芽生えます。ところが、ある空き家で血を吐いて倒れていた老人を手厚く葬ってあげたところ、そこにやってきた息子夫婦に通報され、彼は殺人・窃盗・家宅侵入・ソンファ拉致の罪で収監される破目に…というものです。

具体的な筋はしかしここまでで、あとは現実とも、ファンタジィともつかないような場面が展開していきます。多分、熱烈なギドク・ファンからは「また毒気が薄れた」って言われそうだけれど、私は“毒”が、内面に深化し沈潜化していっただけだと思うのです。そちらの方が、より描くのが困難なのではないでしょうか。あえて言えば…西洋的「理」と、東洋的「気」の融合の世界…とでも言うような。人間の存在そのものに対する根源的孤独を、宗教的なものを超えた純粋な「愛」が、その心の傷を、優しくいたわるようにふんわりと包み込む…でも、その愛は飢え、一方的に求めるものへは開かれず、真に愛し合う二人にしか見えない…そんな暖かさに溢れた映像でした。

青龍賞新人男優賞に輝いたチェヒは、その優しさと孤独感を見事に演じきっています。ただ、これは『悪い男』の主演、チョ・ジェヒョンでも感じたことですが、その後の彼の主演作がイマイチぱっとしないのを見ても分るように、これは監督がチェヒから引き出したものかもしれません。なにしろ、彼には徹頭徹尾、ついに一言のセリフもないのですから!(『悪い男』でも一言発したし、『魚と寝る女』でも、女主人公は電話はかけていた)対するイ・スンヨンも、やや陰が薄いのですが、発する言葉は「サランヘヨ」の一語だけ。さて、これはどこに出てくるでしょう?見てのお楽しみです。

ピッキングするあんちゃんなのに、なぜか超高級なBMWのバイクに乗っている。でも、そのバイクのフォルムがたまらなく美しく、かっこいい。映像全体に、キム・ギドクの特徴である絵画的な美しさが溢れています。音楽も、哀愁さと不思議な浮遊感があって素晴らしい。とにかく、字幕なんかなくても(だってほとんどセリフのない無言劇^^)平気ですから、ぜひ一度は見ていただきたい作品です。

追記・一刻も早く見たくて、昨日新大久保で高いお金を出してDVD、買っちゃったんですが、なぜかミニ写真盾がオマケとして付いてきたんです。何でだろう…といぶかしく思っていたんですが、映画を最後まで見てやっと分りました。お洒落なことしてくれるなぁ、配給さん!
by cookie_imu | 2005-01-07 19:32 | 韓国映画・新しめ