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あるびん・いむのピリ日記

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「在日」 姜尚中著


テレビで見かけるたびに、知的で、クールで、カッコイイ人だなぁ・・・と尊敬し、憧れていた。
けれど、俯くように語りかける彼の瞳に時折見られる、仄暗く氷のように燃える炎が気になっていた・・・
「在日」 姜尚中著_c0018642_97591.jpg

今まで、これほどの韓流ブームの中、そして韓国に魅了され、映画や文化に憧れを持ち、夢中になって何度も韓国に行ったりしていたのに、なぜか半ば無意識に、「在日」の存在だけは、自分の中で避けてきたような気がする。ことにそれが、政治的に入り組んだ部分を内包しているがゆえに・・・

しかし、この本を読んで、それが根底から間違っていたことを、強く感じさせた。
これはカン・サンジュン氏の自叙伝でもあるが、日韓併合からの在日の歴史の概略を知ることのできる、優れた啓蒙書にもなっていると思う。サンジュン氏は、今でこそ在日初の東大教授、日韓を平等に愛する真のリベラルなインテリとしてマスコミの寵児のようになっているが、その出自が熊本のバラックのような「朝鮮人部落(ママ)」であり、父親は「廃品回収業者(ママ)」であることを、なにも包み隠すことなく、語りだしていることに内心驚き、そしてすこし動揺した。それほど真率に自己を語っているのである。

それは・・・全くTVで見ているような、クールな知識人としてのカン・サンジュン氏ではなかった。彼の、父や叔父、そしてなによりも愛する母に寄せる思い・・・それは「オモニ」と表していることからもわかるごとく、どうしようもなく体中を流れる熱いコーリアンのそれであった。幼少時、バラックのような家でどぶろくの密造と養豚だけで何とか暮らしていた家族。時代の荒波の中、半ば強制労働として日本にやってきた父。たった一度の見合いで、父と結婚するために、18歳で日本に渡った母。ハングルを書くことはもとより、日本語の読み書きは全くできなかったそのオモニのことを、サンジュン氏は限りない慈しみを持って描いている。

そして、「貧しいけれど、大人達の愛情の中で大事に育てられた」というサンジュン氏が語りかける言葉は、冷徹ではあるけれど、限りない優しさにみちている。何より大切なことは、彼がペシミストではなく、日韓や中国・ロシアまでを含めた「東北アジア」の共存に関して、希望的な明るさを持って常に活動している、ということだ。これは彼の他の著書の中でも「東北アジア共同の家」構想として言及されている。そして、それを生かすために、東北アジアだけでなく、アメリカなどにも散らばっているコーリアンのネットワークを生かすことが、「在日」の存在意義をアピールすることになる・・・と結ぶのである。

彼のファンであるとないとにかかわらず、韓国の文化に興味を持ったものには必読の書であろう。講談社刊、¥1,500.
by cookie_imu | 2005-10-09 09:40 | 最近読んだ本・雑誌・漫画