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あるびん・いむのピリ日記

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『人のセックスを笑うな』 山崎ナオコーラ

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そのあまりに確信犯的なブッ飛んだペンネームと、相反するように、ややひたむきな題名に惹かれて思わず手に取った。じっくり読んでも30分ほどで読めてしまうような薄い本である。

作者は1978年生まれ。埼玉県在住。国学院大学文学部日本文学科卒業。2004年、本書『人のセックスを笑うな』で第41回文芸賞を受賞する 、とある以外経歴やバイオグラフィーは良く分らない。処女作ではないようだ。「ナオコが名前で、コーラが好きだから」という筆名のつけ方にしても、人を食ったようであるが、のほほんとしてどこか憎めない。

まあ、あまたある若手女流作家の作品の一つに過ぎない…と言ってしまえばそれまでだが、私としては綿谷りさの『蹴りたい背中』よりは印象に残った(残ったとは言っても、『蛇にピアス』を読んだ時のように気色悪くて残ったというのとは別)。なんていうのかな、その恋模様や人間関係のありようが、うんと水で薄めた水彩絵の具より幽かなのだ。でも、色はほんのり付いていて、水墨画ではない。直前まで読んでいた韓国の女流小説家、キム・ハインの書いた『菊の花の香り』があまりに濃く、まるでマティスの油絵のように--というか、よく下味の染みた骨付きカルビのようにこってりとしていたので(これも近々リビュウ書きます^^)、ちょっとお茶漬けサラサラ、といきたくなったというのが私の本音かもしれない。

内容は、夫もいる39歳の美術専門学校の女性講師ユリが(姓が猪熊、っていうのも笑っちゃう。でもその辺の記号的メタファーの扱い感覚は飄逸味があって良い)、二十歳年下の生徒である「オレ」と恋仲に落ちる…といった不倫話。若い男の子の視点で文が綴られていて、だんだんと年の離れている彼女のことが好きになる過程が、淡々と、しかし丁寧に描かれている。性描写も露骨ではなく、好感が持てる。彼女の好きな食事を作ってあげたりするところも、今風の男の子か(笑)。若い女性作者なのに、若い男性の筆致が不自然でなく出せているところに、ちょっと感心したりする。



しかし…、結局は、彼との関係を女性の側から清算して、夫と旅に出てしまう。そしてそれをいつまでも寂しく感じでいる「オレ」、っていう精神構造は、オッサン世代の私から見ればよく分らない。熟女の深情け、といったことも考えられようが、そんなに密接で息苦しい仲じゃないのだ、この二人は。全ては水のようにさらさらと流れる、極めて希薄な人間関係。うたかたのように結んでは消える、男女の愛。いつから日本人、って、こんな人間関係で満足できるような社会性になってしまったんだろう。それでも、人間としての根源的孤独は「愛」によってしか救済されず、それは世間体や、見かけの善し悪しではなく、個人の好悪に関わるもの…といったところが、些か現代においてすら年が離れすぎている男女の、「人のセックスを笑うな」という題名となる由縁なのであろう。そんなことだから、あえてしんどい思いをして結婚し、子をなして、「家族」という単位を構成しよう、なんて思わなくなるのかなぁ…などとまで、考えてしまった。現代の最先端の若者のものの考え方を知る上でも、好適の書かもしれない。若者気質における、切ないくらいの人間関係の儚さが、逆に哀切に私の胸を締め付けた。
by cookie_imu | 2005-02-03 00:19 | 最近読んだ本・雑誌・漫画