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あるびん・いむのピリ日記

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『アドリブ・ナイト』

一昨年、留学中にテグのアート系映画上映専門館で見てからDVDも買ったけれど、どうしても言葉の壁を突破できずに「素敵な映画だ」と思っていながらレビューを書くことができなかった作品でした。極めて地味な作品だったので、まさか日本でロードショーをするとは思っても見なかったので・・・それを見ることができてとても感慨深いものがありました。
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監督は「チャーミング・ガール(女、チョンヘ)」の公開で日本でも知られたイ・ユンギ。主演はよく知られた冬ソナのユン・ソクホ監督四季シリーズ「春のワルツ」に大抜擢され、ブレイクした大型新人、ハン・ヒョジュ。その他男優陣ではキム・ギドクの「春夏秋冬・・・そして冬」の青年僧を印象深く演じたチャン・キヨンなどが出演しています。



あまりにも起伏の無い、なーんにも起きない、まさしく日常そのものをまるでドキュメンタリーのように描いた映画な上に、ほとんどの進行がセリフ中心で女主人公の微妙な心の襞などを表す独白などはさっぱり聞き取れなかったのですが、今回は字幕がついて本当に助かりました。と同時に、その表現されている世界の深みや奥行きも実感されて、また感動を新たにしました。
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筋立てといってもこれと言って説明することも無いくらいです。ある危篤の男のため、昔家出したその娘に似ているというだけで、人待ちしていた若い女性(ハン・ヒョジュ)に娘の知り合いだったキヨン(キム・ヨンミン)らが、人違いでもいいから父親の臨終に立ち会って欲しい、娘が今わの際に戻ってきたと思わせてほしい・・・と懇願され、その家に向かって一晩を過ごす・・・というものです。まさしくそれは一人の人間の臨終という「普遍的沈痛」な題材であり、しかも夜から夜明けまでの一晩を描くものなので画面は終始薄暗く、重苦しい気分のただようものでありました。
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しかし・・・にもかかわらず、と言うべきでしょうか、画面には常に適度な緊張感が漂っており、内容が重いからといって見るのが苦しくなったり、退屈になったりすることは全くありませんでした。映画はイ・ユンギ監督が「チャーミング・ガール」で見せたようなおよそ韓国人らしからぬ(失礼)独特な繊細感で満ちており、画面の隅々にまで丁寧な作りこみがしてありました。演じるハン・ヒョジェも、ほとんどスッピン!に近いながらも沈鬱で翳りのある女主人公の雰囲気をよく好演していたと思います(さすがに、キム・ジスの域には達してはいませんでしたが・・・)
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原作は日本人若手女性作家の平安寿子(たいら あすこ)が書いた作品集「素晴らしい一日」という短編集に収められた「アドリブ・ナイト」です。そう、これも「カンナさん大成功です!」に見られるような最近流行の日韓原作‐映画コラボレーションの一つなのです。映画を見てから小説も読んだのですが、原作のテイストを実に丁寧に汲み取っていて、しかもそこに「和魂韓才」というか韓国風味付けもしっくりとなされており、とても上手く噛み合っているな、と感じました。アート系文芸映画なのでもちろん韓国では興行の歯牙にも引っ掛けられませんでしたが(苦笑)、その空間感覚といい映画的色彩感覚といい、またしても非凡なものを感じさせる秀作だと感じました。公開されている映画館は少ないですが、皆様にぜひ見ていただきたい(そして原作も読んでいただきたい)一作だと思います。
by cookie_imu | 2008-02-10 22:59 | 韓国映画・新しめ